厚生労働省は、職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた取組を推進するため、企業の取組の好事例などを紹介した「職場のパワーハラスメント対策ハンドブック」を作成し、公表しています。ハンドブックでは、17社の取組の好事例を紹介しており、取組に着手していない企業にとっては参考となるでしょう。
ハンドブックの概要
職場のパワーハラスメントについては、この問題の予防・解決に向けた取組を行っている企業が約半数にとどまるなど、取組が遅れている企業が多く存在するといった課題が明らかとなっています。
また、職場のパワーハラスメントなどによる若者の「使い捨て」が疑われる企業が、社会で大きな問題となっています。
そこで、厚生労働省では、来年2月まで無料の「パワーハラスメント対策支援セミナー」を全国約50箇所で開催するとともに、ハンドブックを配布することとしています。
◎パワーハラスメントについての経験の有無
過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した者は回答者全体の25.3%、パワーハラスメントを見たり、相談を受けたことがあると回答した者は回答者全体の28.2%、パワーハラスメントをしたと感じたり、したと指摘されたことがあると回答した者は7.3%。
◎受けたパワーハラスメントの内容
過去3年間に受けたパワーハラスメントの内容としては、「精神的な攻撃」が際立って多くなっている。
類 型 | 内 容(性別、年齢) |
精神的な攻撃 | •皆の前で、大声で叱責。物をなげつけられる。ミスを皆の前で大声で言われる。 (女性、30歳代) •人格を否定されるようなことを言われる。お前が辞めれば、改善効果が300万出るなど会議上で言われた。(男性、20歳代) •同僚の前で無能扱いする言葉を受けた。(男性、50歳以上) |
過大な要求 | •終業間際に過大な仕事を毎回押し付ける。(女性、40歳代) •一人では無理だとわかっている仕事を一人でやらせる。(男性、20歳代) •休日出勤しても終わらない業務の強要。(男性、30歳代) |
人間関係からの切り離し | •挨拶をしても無視され、会話をしてくれなくなった。(女性、30歳代) •報告した業務への返答がない。部署の食事会に誘われない。(女性、30歳代) •他の人に「私の手伝いをするな」と言われた。(男性、50歳以上) |
個の侵害 | •プライベートな事を聞いてきたり、相手は既婚者であるにも関わらず独身の私にしつこく交際を迫った。(女性、20歳代) •交際相手の有無について聞かれ、過度に結婚を推奨された。(女性、30歳代) •個人の宗教を、皆の前で言われ、否定、悪口を言われた。(女性、50歳以上) |
過小な要求 | •従業員全員に聞こえるように程度の低い仕事を名指しで命じられた。(女性、20歳代) •営業なのに買い物、倉庫整理などを必要以上に強要される。(男性、40歳代) •草むしり。(男性、50歳以上) |
身体的な攻撃 | •足でけられる。(女性、50歳以上) •胸ぐらを掴む、髪を引っ張る、火の着いたタバコを投げる。(男性、40歳代) •頭をこずかれた。(男性、50歳以上) |
◎パワハラ対策は経営上重要な課題だと思うか。
企業の担当者に対して「職場のパワーハラスメントの予防・解決のための取組は経営上の課題として重要か」を質問したところ、「非常に重要である」、「重要である」を合わせると、回答企業全体の80.8%が重要と認識している。また、従業員規模による差は見られるものの、パワーハラスメントの予防・解決のための取組の重要性に対する認識は全般的に高い。
◎パワーハラスメントが発生している職場の特徴
企業調査において、パワーハラスメントに関連する相談がある職場に共通する特徴として、「上司と部下のコミュニケーションが少ない職場」が51.1%と最も多く、「正社員や正社員以外など様々な立場の従業員が一緒に働いている職場」(21.9%)、「残業が多い/休みが取り難い」(19.9%)、「失敗が許されない/失敗への許容度が低い」(19.8%)が続いている。従業員調査でも同様の傾向が示されている。
◎パワハラの予防・解決に向けた取組状況
予防・解決に向けた取組をしている企業は45.4%にとどまり、特に従業員99人以下の企業においては18.2%と2割を下回っている。
◎企業の取組内容
パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組として実施率が高いのは、「管理職向けの講演や研修」で取組実施企業の64.0%で実施され、「就業規則などの社内規定に盛り込む」(57.1%)が続いている。
実施している取組の効果が実感できるかという点については「講演や研修」など直接従業員に働きかける取組の効果の実感が高い一方で、「就業規則に盛り込む」といった事項では相対的に低くなる傾向が見られる。「就業規則に盛り込む」といった対応は企業規模に関わらず実施できるものの、「講演や研修」といった対応は一定程度の従業員規模がないと実施しにくいこともあり、特に従業員99人以下の企業での実施率が低くなっている。
◎予防・解決に向けた取組の効果
上記の取組のうち、効果を実感した比率が最も高いのは、取組実施率でも最も高かった「管理職を対象にパワハラについての講演や研修会を実施した」で、実施企業の77.3%で効果を実感している。また、「一般社員を対象にパワハラについての講演や研修会を実施した」(70.6%)、「アンケート等で、社内の実態把握を行った」(62.1%)、「職場におけるコミュニケーション活性化等に関する研修・講習等を実施した」(61.2%)など、管理職や一般社員に直接的に働きかける取組において効果を実感している比率が高くなる傾向が見られた。
以上のような調査結果を基にしながら、パワーハラスメントに対する企業と従業員の取り組み方例をコンパクトにまとめて紹介しています。