法務省・法制審議会から民法の債権関係の規定見直しに関する要綱仮案が公表されました。現行民法が明治29(1894)年の制定以来、全般的な見直しが行われてこなかったこと、社会・経済が大きく変化し、取引形態も多様化・複雑化していることを踏まえての見直し作業が行われきました。しかし、法曹界や実業界からは、市民社会の基本ルールであることから拙速にならないよう慎重に進めるよう要望も出されています。
■要綱仮案の概要
◎定型約款について
法曹界や実業界からも激しい反対の声があった「約款」に関する規定の創設については、今回の要綱仮案では取りまとめには至らず、保留となりました。なお、中間試案までは「約款」という表現を使っていましたが、その後、「定型条項」に変わり、現在は「定型約款」という表現になっています。
◎消滅時効
法務省は、債権法の改正と言っていますが、債権法だけではなく、錯誤や代理、時効という民法全体に関連がある部分(民法総則)についても改正の対象になっています。総則を改正することは、その影響が私法全体に及ぶことから法律全体の整合性が取れているのか改正自体を危惧する法曹家も多数いるようです。
(1)原則
まず、消滅時効の期間ですが、現行法は大雑把に言えば民事10年・商事5年というようなイメージですが、要綱仮案では、
ア.債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
イ.権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
に債権が時効消滅するとなっています。これにより、商法522条を削除となっていますので、商事債権によって分類することもなくなり、一律に消滅時効期間が定まります。
次に、現行法では、例えば、医師の診療費は3年で消滅時効にかかり(民法170条)、弁護士報酬は2年で消滅時効にかかる(民法)という規定がありますが、要綱仮案ではこれらの職業別短期消滅時効制度は一切廃止となりました。
(2)不法行為による損害賠償請求権の消滅時効
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効については、基本的には現行法(20年間)どおりなのですが、要綱仮案では人の生命身体の侵害による損害賠償請求権については、より長い消滅時効期間(例えば、被害者が損害及び加害者を知った時から5年間)になっています。
特に、交通事故(人身事故)案件などについて適用されることになります。
(3)時効の完成猶予と更新
現行法では「時効の中断」という制度があり、時効の進行を止めて、振り出しに戻してしまうというものですが、「中断」という言葉が分かりにくいと言われてきたことから、要綱仮案では「時効の完成猶予」と「時効の更新」という表現が用いられています。
◎法定利率
法定利率について、現行法は、民事は年5%、商事は年6%となっています。要綱仮案では、一律に年3%に変更となっています(商法514条は削除)。しかも、3年ごとに1%刻みで見直すとなっていますので、変動利率となります。
また、交通事故の損害賠償などで被害者側の賠償額を減額する要素である中間利息控除の利率についても議論があり、要綱仮案では法定利率と同じ(年3%・変動制)になりました。利率が低い方が被害者有利となりますので、これが適用されれば今よりも賠償額が増えることになります。
◎債務不履行
中間試案では、「債務の本旨」という言葉を使うと債務不履行の態様を限定する趣旨だと誤読されるとして、あえて削除していたのですが、要綱仮案では、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」という形で復活しました。
◎危険負担
契約目的物が帰責性なしに滅失等した場合のリスクを誰が負担するかという問題である危険負担の問題については、現行法の規定が合理的ではないと批判が強かったことから、現行民法534条及び535条は削除という方向になりました。
ただし、危険負担に関する規定が消えたわけではなく、「売買」のパートにおいて「目的物の滅失又は損傷に関する危険の移転」という規定が定められています。そこでは、売主が買主に目的物を引き渡した時以後にその目的物が売主の帰責性なく滅失・損傷したときは、買主は契約の解除等をできないし、代金の支払いを拒むこともできない旨を規定しています。
なお、中間試案では、現行民法536条1項に該当する規定も削除となっていましたが、法曹界から矛盾点を指摘され要綱仮案では復活しており、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と修正しております。