厚生労働省の労働条件分科会は、わが国の一般労働者の年間総実労働時間が2,000 時間を上回る水準で推移し、週労働時間60 時間以上の者の割合は8.8%、特に30歳代男性では17.2%となっていること、また、年次有給休暇の取得率は48.8%と低い状況が続いていることから、労働者の健康確保および仕事と生活の調和のとれた働き方の実現を目指し、今後の労働時間法制等の在り方についての建議を行いました。
■「今後の労働時間法制等の在り方について」の概要
Ⅰ.働き過ぎ防止のための法制度の整備等
1.長時間労働抑制策
(1)中小企業における月60 時間超の時間外労働に対する割増賃金率の適用猶予の見直し
中小企業労働者の長時間労働を抑制し、その健康確保等を図る観点から、月60 時間を超える時間外労働の割増賃金率を5割以上とする労働基準法第37 条第1項ただし書きの規定について、中小企業事業主にも適用すること。
(2)健康確保のための時間外労働に対する監督指導の強化
時間外労働の特別条項を労使間で協定する場合の様式を定め、当該様式には告示上の限度時間を超えて労働する場合の特別の臨時的な事情、労使がとる手続、特別延長時間、特別延長を行う回数、限度時間を超えて労働した労働者に講ずる健康確保措置及び割増賃金率を記入すること。
(3)所定外労働の削減に向けた労使の自主的取組の促進
「脳・心臓疾患の労災認定基準における労働時間の水準も踏まえ、『1か月に100 時間』又は『2か月間ないし6か月にわたって、1か月当たり80 時間』を超える時間外・休日労働が発生するおそれのある場合、適切な健康確保措置を講じるとともに、業務の在り方等を改善し、特別延長時間の縮減に向けて取り組むことが望ましい」旨を盛り込むこと。
2.健康に配慮した休日の確保
週休制の原則等を定める労働基準法第35条が、必ずしも休日を特定すべきことを求めていないことに着目し、月60時間超の時間外労働に対する5割以上の割増賃金率の適用を回避するために休日振替を行うことにより、休日労働の割増賃金率である3割5分以上の適用を推奨する動向については、法制度の趣旨を潜脱するものであり、本分科会として反対する。
3.労働時間の客観的な把握
過重労働による脳・心臓疾患等の発症を防止するため労働安全衛生法に規定されている医師による面接指導制度に関し、管理監督者を含む、すべての労働者を対象として、労働時間の把握について、客観的な方法その他適切な方法によらなければならない旨を省令に規定すること。
4.年次有給休暇の取得促進
年次有給休暇の取得率が低迷していることを踏まえ、労働基準法において、年次有給休暇の付与日数が10日以上である労働者を対象に、有給休暇日数のうち年5日については、使用者が時季指定しなければならないことを規定すること。
5.労使の自主的取組の促進
労働時間等設定改善法に、企業単位で設置される労働時間等設定改善企業委員会を明確に位置づけ、同委員会における決議に法律上の特例を設けるとともに、同法に基づく労働時間等設定改善指針においても、働き方・休 み方の見直しに向けた企業単位での労使の話合いや取組の促進を新たな柱として位置づけること。
Ⅱ.フレックスタイム制の見直し
1.清算期間の上限の延長
フレックスタイム制により、一層柔軟でメリハリをつけた働き方が可能となるよう、清算期間の上限を、現行の1か月から3か月に延長することが適当である。
2.完全週休2日制の下での法定労働時間の計算方法
完全週休2日制の下では、曜日のめぐり次第で、1日8時間相当の労働でも法定労働時間の総枠を超え得るという課題を解消するため、完全週休2日制の事業場において、労使協定により、所定労働日数に8時間を乗じた時間数を法定労働時間の総枠にできるようにすること。
3.フレックスタイム制の制度趣旨に即した運用の徹底等
仕事と生活の調和を図りながら効率的に働くことを可能にするものであるという制度趣旨を改めて示し、使用者が各日の始業・終業時刻を画一的に特定するような運用は認められないことを徹底すること。
Ⅲ.裁量労働制の見直し
1.企画業務型裁量労働制の新たな枠組
(1)法人顧客の事業の運営に関する事項についての企画立案調査分析と一体的に行う商品やサービス内容に係る課題解決型提案営業の業務
※具体的には、例えば「取引先企業のニーズを聴取し、社内で新商品開発の企画立案を行い、当該ニーズに応じた課題解決型商品を開発の上、販売する業務」等を想定
(2)事業の運営に関する事項の実施の管理と、その実施状況の検証結果に基づく事業の運営に関する事項の企画立案調査分析を一体的に行う業務
※具体的には、例えば「全社レベルの品質管理の取組計画を企画立案するとともに、当該計画に基づく調達や監査の改善を行い、各工場に展開するとともに、その過程で示された意見等をみて、さらなる改善の取組計画を企画立案する業務」等を想定
2.手続の簡素化
企画業務型裁量労働制が制度として定着してきたことを踏まえ、労使委員会決議の本社一括届出を認めるとともに、定期報告は6か月後に行い、その後は健康・福祉確保措置の実施状況に関する書類の保存を義務づけること。
3.裁量労働制の本旨の徹底
裁量労働制を導入しながら、出勤時間に基づく厳しい勤怠管理を行う等の実態があることに対応するため、始業・終業の時刻その他の時間配分の決定を労働者に委ねる制度であることを法定し、明確化すること。
Ⅳ.特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするため、一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、長時間労働を防止するための措置を講じつつ、時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した労働時間制度の新たな選択肢として、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)を設けること。